本研究は宿主免疫系から回避して寄生する寄生虫、マンソン住血吸虫Schistosoma mansoniとイヌ糸状虫Dirofilaria immitisは、宿主内での免疫系から身を守るために虫体表皮成分または分泌物中に特殊なタンパクを所有していると推測されるが、まだこのようなタンパクが見つかったという報告はない。そこでこのような免疫抑制に関わるタンパクをコードするcDNAを検索し、これをmammalianで高発現するベクターを用いて遺伝子導入し、overexpressionさせることにより、宿主免疫系でどのような機構で免疫抑制反応が行われているのか検討することにした。 マンソン住血吸虫(Schistosoma mansoni)及びイヌ糸状虫(Dirofilaria immitis)の虫体からRNAを抽出しmRNAを精製後、cDNAライブラリーを構築した。このphageを大腸菌に感染させ、抗S.mansoni抗体及び抗D.immitis抗体を用いてスクリーニングし、寄生虫由来タンパクをコードするcDNAを含むcloneを取得した。 このうちS.mansoniより得られたcDNAはそのシークエンスが免疫抑制遺伝子と推定されているRas遺伝子とホモロジーを有していた。次にこのRas遺伝子(以下SmRasと呼ぶ)をクローニングし、種の違う2種類のcell line、マウスのファイブロブラスト(NIH3T3)及びヒト正常血管内皮細(HUVEC)に遺伝子導入することを試みた。まず、mammalian発現ベクターであるpCDNA3.1にSmRas遺伝子をサブクローニングし、これをNIH3T3及びHUVECにトランスフェクトし、薬剤耐性株のみクローニングし、数種類のクローンを得た。これらを異種のリンパ球(NIH3T3とヒト抹消血リンパ球またはHUVECとマウス脾細胞)と共培養することにより、宿主免疫反応をMLR(Mixed Lymphocytes Reaction)にて評価した。その結果、遺伝子導入していないcell lineとSmRasを過剰発現するcell lineとの間に有意な差は見出されなかった。この結果よりまだ他に免疫抑制に関与するたくさんのファクターがあるものと考えられ、これからさらにそのファクターを同様な方法で検索する予定である。
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