高圧酸素を応用した脳腫瘍(悪性グリオーマ)患者の放射線治療では、高圧酸素終了後早期に放射線照射を行った症例には全例残存腫瘍の縮小が認められたが、約30分後に照射した症例には腫瘍縮小が認めれられなかった。治療予後の検討を行うと、高圧酸素併用群で有意な生存期間の延長が得られ、この生存期間の延長に最も影響する因子は高圧酸素であることが統計的に確認された。また、この治療法に伴う合併症の増強は認められなかった。 腫瘍の動物モデルでは、低酸素細胞を多く含む腫瘍でこの治療法の有効性が確認された。すなわち、放射線抵抗性の低酸素細胞を約10%含むSCCVII腫瘍モデルでは、この治療で有意な腫瘍縮小が得られた。しかし、この含有率が3%以下の9L腫瘍モデルでは有意な腫瘍縮小が得られなかった。さらに、有効性が確認されたSCCVII腫瘍モデルでは、高圧酸素終了から放射線照射までの時間に大きく影響されることが確認された。すなわち、高圧酸素終了から5-15分以内の放射線照射では有意な腫瘍縮小が得られるが、30分後の照射ではそれが認められず、これは臨床治療結果とほぼ同様であり、照射までの時間の要因が重要であることが示唆された。 次に、SCCVII腫瘍モデルを用いて、高圧酸素終了直後から腫瘍内酸素分圧をMRIで測定すると、腫瘍内の酸素分圧は終了直後には基礎値よりも約20%高く15分後でも15%に保持されていることが分かった。これに対して、辺縁の筋肉組織の酸素分圧は早期に低下していた。このような組織内酸素分圧の変化から、高圧酸素終了後の放射線照射の有効性と周囲の正常組織への酸素効果が少ないことを示唆している。 従来の高圧酸素曝露中の放射線照射では、治療効果よりも正常組織の副作用が強く出て、最近ではほとんど臨床応用が行われていない。しかし、新しい併用法では治療効果があることと、副作用が少ないことが考えられる。
|