研究概要 |
本研究は、卵巣癌細胞において制癌剤抵抗性要因となっているアポトーシス抑制因子を解析し、これらによるアポトーシス抑制を解除する方法を確立した上で、これとcisplatin併用による新しい卵巣癌治療法の開発を目指した基礎的研究を行うものである。本研究の内容は(1)卵巣癌におけるゴナドトロピンとその受容体を介するアポトーシス抑制機序の解析、(2)卵巣癌における癌遺伝子であるc-erbB-2を介するアポトーシス抑制機序の解析、(3)卵巣癌におけるアポトーシス関連遺伝子bcl-2/baxの遺伝子操作によるアポトーシス誘導の確立、である。 本研究期間内に、ゴナドト口ピンであるヒト絨毛性ゴナドトロビン(hCG)、およびその受容体LH/hCGreceptorによるシグナル伝達がcisplatinによるアポトーシスを抑制することがin vitroで確認できた。さらに、このアポトーシス抑制における細胞内シグナル伝達経路はbcl-2/baxの発現変化によるものではなく、hCGによって誘導される[GF-1がautocrine,paracrineに作用してアボトーシス抑制に働いていると考えられ、実際、IGF-1受容体に対する中和抗体の同時添加ではhCGのアポトーシス抑制が解除された。血中ゴナドトロビンレベルを低下させるGnRH analogue製剤を用い、これをcisplatinと併用することで癌治療増強効果が認められるか否かは、本学医の倫理委員会の承認を得て臨床試験を開始しており症例を集積中である。 卵巣癌細胞における主要な癌遺伝子であるc-erbB-2を介したシグナル伝達もcisplatin抵抗性に関与している可能性が考えられるが、c-erbB-2アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた検討では、卵巣癌細胞のcisplatin感受性を上昇させなかった。 アポトーシスを促進する遺伝子であるbaxを組み込んだアデノウイルスベクターを作成し、これを卵巣癌細胞に移入させる実験系が確立された。bax遺伝子導入が卵巣癌細胞のアポトーシスを誘導し、cisplatinとの併用で殺細胞効果が高められることが確認された。さらにヌードマウスを用いたin vivo系でもbax組み替えアデノウイルスベクターの有用性が示されてきている。
|