卵巣癌・子宮体癌・子宮頸癌における遺伝子・染色体異常についての解析-FISH法、CGH法を用いた新たな診断法の開発と細胞診への応用-

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10877262
• 研究機関: 慶応義塾大学
• 研究代表者: 進 伸幸 慶應義塾大学, 医学部, 助手 (90206459)
• 研究分担者: 青木 大輔 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (30167788) ; 宇田川 康博 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (80118918)
• キーワード: 子宮頸癌 / FISH法 / 第1染色体 / 第17染色体

研究概要

発癌過程の初期では一つの腫瘍細胞がモノクローナルに増殖するが、途中からは新たな染色体・遺伝子異常が加わり、より増殖能・悪性度が亢進した癌細胞が他の癌細胞の増殖を凌駕し、major subpopulationへ移行していくと考えられる。今回我々は、婦人科悪性腫瘍、特に子宮頸癌およびその初期病変にける第1、17染色体それぞれの短腕(p)、セントロメアのDNA probeを用いた2色FISH法にて、個々の癌細胞における遺伝子・染色体異常を検索し、以下の結果を得た。
1. 17p欠失を示す細胞群の異常増加はFISH法では浸潤癌の59%に認められ、また腺癌で高頻度(82%)に認められた。腺癌が扁平上皮癌に比べ予後不良である事実、およびP53蛋白の異常蓄積を示す症例においてFISH異常群が出現する頻度が高い事実を考え併せると、l7pの異常出現と子宮頸癌の悪性度との間に何らかの関連があると推測し得る。また第17染色体polysomy等の異常なminor subpopulationの出現が初期子宮頸癌である上皮内癌または微小浸潤癌において認められた。第17染色体のpolysomy所見は頸癌の発生ならびに初期進展に関与する変化であり、さらに浸潤癌へ進展するのに伴い17p欠失が加わるという可能性が考えられる。
2. 浸潤癌における1p異常に関しては、polysomyが高頻度(46%)に見られ、さらに腺癌では1p欠失が、扁平上皮癌では1p転座を示唆するパターンが認められた。扁平上皮癌と腺癌では染色体異常の出現頻度と出現パターンが異なり、染色体変化の差異が組織型、悪性度と関連している可能性が示唆された。
3. 高分化型腺癌はHE標本による病理学的検査では悪性の診断確定に苦慮することがあるが、今回の検討により子宮頸部腺癌に関して、その病理学的診断を行う上で2色FISH法は有益な情報が得られる検査法であることが判明した。

研究成果

• [文献書誌] 青木大輔、宇田川康博、斉藤英子他: "HDRA(Histoculture drug response assay)によるcisplatinに対する卵巣癌の感受性判定と腫瘍マーカーの推移についての検討" 腫瘍マーカー研究会誌. 12巻. 237-239 (1998)
• [文献書誌] 青木大輔、宇田川康博、斉藤英子、野澤志朗: "新たな腫瘍マーカーGAT" 産婦人科の実際. 47巻6号. 885-893 (1998)
• [文献書誌] Yasuhiro Udagawa,Daisuke Aoki: "Clinical characteristics of a new developed ovarian tumour marker galactosyltransferase associated with tumour(GAT)" European Journal of Cancer. Vol.34 No.4. 489-495 (1998)
• [文献書誌] Yukio Katsuki: "Effects of dienogest,a synthetic steroid,on experimental endometriosis in rats" European Journal of Endocrinology. Vol.138. 216-226 (1998)
• [文献書誌] 宇田川康博 他: "組織片培養法を用いた新たな抗癌剤感受性試験の有用性の検討-女性性器癌に対する有効薬剤の選択を目指して-" Oncology & Chemotherapy. 14巻2号. 94-98 (1998)
• [文献書誌] Eiko Saitoh, Daisuke Aoki: "Serum levels of β1,4-galactosyltransferases released from human ovarian cancer cells transplanted into nude mice" International Journal of Gynecological Cancer. Vol.7 Suppl.2. 74 (1997)