研究概要 |
ATM遺伝子のleucine zipper motifを含む領域は、腫瘍細胞株において放射線照射後のS期のチェックポイントを欠損させ、放射線感受性の増強、染色体の破損を引き起こすことが解っている。本研究はleucine zaipper motifを含むATM遺伝子を癌細胞に導入し、dominant negative効果によりシグナル伝達経路を遮断し放射線に対する感受性増強効果を検討することを目的としている。現在までにこのような着目による遺伝子治療の報告はなく、全く新しい発想である。ATM遺伝子のdominant negative効果により、理論的には約10倍の放射線増強効果が期待でき、本実験により効果が確認されれば、将来的には放射線の治療効果を増強させる目的を持った新たな遺伝子治療として位置づけることが可能となる。 ヒト上顎癌細胞株IMC2,3,4,の3株をそれぞれ1000個2週間培養し、6Gyの放射線照射を行い生存確率を測定した。IMC2株が放射線に対してやや感受性が高かった。ATM cDNAをPCR法で増幅し、IMC2,3,4株に遺伝子導入を行い、同様に放射線6Gyを照射し生存確率を測定し、AT遺伝子による放射線増強効果について検討したところ、IMC2,3,4株それぞれの間に有意差は認められなかった。現在他の細胞株について検討中であり、また、他の放射線増強効果が期待される転写因子についても検討中である。またこれに関連して、手術や生検で得られた癌組織において放射線感受性を低下させる因子について、薬剤耐性因子と関連づけて発現を検討した。
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