先天眼球振盪の原因遺伝子を解明するためにいくつかの家系について遺伝子検索をおこなった.最初に実施した家系は、先天眼球振盪を主徴とする乳児を発端者として罹患者7名、健常者10から構成されていた.研究目的の説明と同意を得て末梢血を採取し、最初に海外で報告のある6番短腕についてサテライトマーカーDNAを用いて連鎖解析を行ったところ疾病との連鎖を確認できなかった.次に、その他の染色体について調べると、11番染色体短腕での連鎖が強く疑われた.その附近の候補遺伝子としてPAX6が考えられた.PAX6遺伝子の変異は先天無虹彩の原因遺伝子としてよく知られているが、我々の症例においては虹彩にはまったく異常がなかった.しかし、改めて臨床徴候を検討すると、先天眼振がきわだつが軽度の小角膜、角膜輪部混濁、黄斑部低形成などの先天異常が合併することが判明した.そこで、PAX6遺伝子の変異について検討したところ、罹患者ではすべてエキソン5のC末コドン118にミスセンス変異を見い出した.この変異は健常者には検出されなく、疾病に関連すると思われた.従来のPAX6変異の大部分の報告は、無虹彩を表現しており、我々の家系はきわめて稀ながらPAX6と先天眼異常との関連を解明するための貴重な結果と思われる.このことを手がかりとして、次年度には別個の先天眼球振盪家系について検索を進めたい.
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