先天眼球振盪には特発性と症候性とがある.症候性のものは先天全色盲、眼白子症などに随伴するもので原因遺伝子が明らかにされつつある.一方、特発性のものの多くは常染色体優性遺伝するが、その原因遺伝子は明らかではない.この研究は、大きなサイズの常染色体優性遺伝家系を用いて先天眼球振盪の原因遺伝子を明らかにしようとした。罹患者はいずれも先天性の眼球振盪を主徴とするものであった。末梢血からDNAを得て、多数のサーテライトDNAを用いて連鎖解析を実施したところ、6番染色体短腕に連鎖することが判明した.該当する領域には先天無虹彩の原因遺伝子であるPAX6が同定されているので、PAX6遺伝子をPCR法で増幅して塩基配列を検討したところ、エクソン6の715番塩基にミスセンス変異のあることが判明した.変異は患者のみに検出され、健康者および対照群では同定されなかったので、原因遺伝子であると判断した。改めて臨床症状を検討すると、先天無虹彩の主要徴候である虹彩の異常はまったく見られなかった.一方、先天眼球振盪に加えて、黄斑低形成や角膜周辺部のわずかな血管異常が見られた.これらの異常は先天無虹彩の随伴徴候であることがわかっているので、先天無虹彩の亜型とみなすのが妥当だと思われた。いずれにしても、検討した家系の主要徴候は先天眼球振盪であり、PAX6が胎生期には眼球のみならず小脳を含む中枢神経系においても発現することから、先天眼球振盪の成因としてPAX6の場合があり得ることを本研究によって明らかにすることができた.
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