研究概要 |
本研究では,硝子体手術時にえられる硝子体サンプル中の血管新生因子濃度をELISA法を用いて測定した。また培養ミュラー細胞が発現する血管新生因子の遺伝子発現をRT-PCRを用いて調べた。その結果,増殖糖尿病網膜症の初回硝子体手術時に得られる硝子体中の血管内皮増殖因子(VEGF),インスリン様増殖因子1(IGF-1)濃度は術後再出血例,再剥離例でも同様に高値を呈していた。このことは眼内の血液網膜関門の破綻により,血中の細胞増殖因子が硝子体中に流入する機序が考えられるが,VEGFは血中濃度よりもはるかに高濃度を認める例が多く,ミュラー細胞をはじめとする眼内の細胞がこれらの細胞増殖因子を産生している可能性が示唆された。IGF-1は血中濃度が高く,血液網膜関門の破綻によって硝子体中に流入している量が他の細胞増殖因子よりも高値を呈する可能性が考えられた。培養ミュラー細胞を使用したRT-PCRでは,肝細胞増殖因子(HGF),VEGF,IGF-1,インターロイキン1,6,8(IL-1,6,8),レニンアンギオテンシン系の諸因子(レニン,アンギオテンノーゲン,アンギオテンシン変換酵素,アンギオテンシンタイプII受容体),形質転換増殖因子(TGF-β1,2),形質転換増殖因子受容体(TGF type1,2),神経栄養因子(NGF,BDNF,NT-3)を発現していた。これらの結果からミュラー細胞が眼内血管新生に関与していること,増殖糖尿病網膜症などの硝子体内に存在する種々の血管新生因子の産生源になっている可能性が考えられた。
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