我々は鶏胚水晶体中のある種の酸性ホスファターゼがホスホチロシルプロテインホスファターゼ(PTPase)活性を持つことを以前に見い出した。この酵素が水晶体の細胞分化、細胞接着あるいはアポトーシス等の制御を介して水晶体の透明性を制御している可能性を想定し、本研究を進めた。 1. 鶏胚水晶体中のPTPPaseの分離精製 微量で不安定な酵素であるため、短時間でステップの少ない精製方法を検討した。分取用高性能ゲル濾過カラムと容量1mLの高性能陽イオン交換カラムで精製を行い、さらにSDS電気泳動を行うことより、ほぼ単一の蛋白質にまで精製することができた。2段階のカラム精製で比活性は520倍に上昇し、活性回収率は8.1%であった。 2. 生化学的性質等の検討 この酵素の分子量は約18kDaであり、ホスホチロシンやFMNに対する基質特異性が高く、バナジン酸やSH阻害剤、PAOにより強い活性阻害を受けた。ペプチドや蛋白質のチロシン残基に結合するリン酸基を特異的に加水分解することも確認できた。これらの性質は、最近性質が明らかにされつつある低分子型PTPPaseに類似し、この範疇に属するものと思われる。 3. 他組織、他動物での検討 鶏胚水晶体の酸性ホスファターゼ活性の大半はこの酵素であることを明らかにした。それに比べ、高い酸性ホスファターゼ活性を有する肝臓や脳では、この酵素が占める比率はわずかであった。また鶏胚のみでなくウシ、ウサギおよびマウス水晶体中にもこの酵素の存在を確認した。 4. アミノ酸一次構造解析 精製標品を用いて部分一次構造の決定を試みたが、N末端がブロックされており、現時点では成功していない。今後デブロッキング等を行って再試行の予定である。 5. 機能解析 現時点ではこの酵素の水晶体での機能の解析には至らなかったが、この酵素に対するモノクローナル抗体を現在作成中であり、機能解析の大きな武器になるものと期待している。
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