研究概要 |
アルツハイマー型老年痴呆の危険因子の一つに歯の喪失があげられるが,その科学的根拠はないことから本研究では,咬合支持とアルツハイマー型老年痴呆の関連を明らかとすることを目的とした.当初計画の疫学調査は基礎知見を得た後に行うこととし,本年度は,まず,歯牙欠損の分布状態の違いが脳機能にどのような影響を及ぼすかを,マウスの空間記憶学習能と脳細胞の変性から検討した. 1. 空間記憶学習能を,4週齢(幼若群),7週齢(成熟群),82週齢(老齢群)のddY系マウス雄と雌各10匹ずつ計180匹について,多重迷路,8方向放射状迷路および水迷路装置を用い,課題習得と想起記憶に及ぼす影響を検討した結果,空間記憶学習能の評価には8方向放射状迷路装置が有用で,週齢では成熟期から老齢前期,また雌よりも雄の方が実験に適していた. 2. 30週齢ddY系雄性マウス(40匹)を,上顎両側臼歯部抜歯,下顎両側臼歯部抜歯,上下顎両側臼歯部抜歯の3群(各10匹)と非抜歯の対照群(10匹)に分け,抜歯後1週,7週,20週番に8方向放射状迷路装置を用いて空間記憶学習能を観察した.病理組織学的観察は抜歯後20週目の迷路実験終了後,海馬を含む7μm前頭断連続切片を作製,Nissl染色を行い,海馬錐体神経細胞数を観察した.その結果,実験群は対照群より空間記憶学習能が低下し,病理組織学的には,実験群の海馬錐体神経細胞数は対照群より有意に少なかった.これらの所見は特に,上顎抜歯群で著明であった. 以上より,マウスにおける長期間におよぶ臼歯の喪失は空間記憶学習能を低下させ,脳細胞に変性を生じさせた.また,歯牙欠損の分布状態の違いによっても異なる影響が生じることが明らかとなった.
|