研究概要 |
歯周炎病変部には多量の活性化補体が存在しているが、生体の細胞は活性化補体の作用を防御するために補体制御因子を発現している。その発現は炎症性メディエーターによって変化し、発現の低下は自己細胞の破壊と関連することが知られている。我々は難治性歯周炎の原因として補体系に注目し、難治性歯周炎における補体の役割を明らかにする第一段階として、炎症反応において主要な役割を演じている多形核白血球(PMN)とT細胞の補体制御因子の発現に関して成人性歯周炎(AP)患者で実験を行った。(方法)AP患者末梢血(PB)もしくは歯周ポケットPMNを採取し、補体制御因子(CD46,CD55,CD59)の発現をflowcytometryにて測定した。またPBおよび炎症性歯肉より分離したT細胞の発現も測定した。さらに健常人PB PMN をPorphyromonas gingivalis(P.g)あるいはActinobacillus actinomycetemcomitans(A.a)由来のLPSで刺激した際の補体制御因子の発現も測定した。(結果)AP患者のPB PMNとT細胞のすべての補体制御因子の発現は健常人と比較して差は認められなかった。歯周ポケットPMNにおいては全ての、歯周炎罹患歯肉T細胞においてはCD46,CD55の発現がPBのものと比較して有為に減少していた。健常人PB PMNを培養すると全ての補体制御因子の発現は低下したが、P.gあるいはA.a由来LPSで刺激するとさらに発現は低下した。その活性はP.gの方がA.aよりも強かった。(考察)AP羅患部位のPMNとT細胞の補体制御因子の発現は低下しており、これには歯周病原細菌の刺激が関与する可能性が示唆された。刺激する細菌の種類によって活性が異なっていたことは興味深く、今後は実際に難治性歯周炎患者における補体制御因子の発現量について、補体の沈着がサイトカイン産生におよぼす影響について、また難治性歯周炎に関与するとされる細菌を用いて実験を行う予定である。
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