研究概要 |
化学物質と生体成分の相互作用の解析は,生物活性を予測し活性の発現メカニズムを解明するために重要である.近年,コンピュータによるデータ処理技術が飛躍的に進歩し,従来では測定不能な微小電流を正確に計測しデータ処理できるようになった.その中でも特に,ディフェレンシャルパルスボルタメトリー法(DPV法)による酸化還元反応の測定は画期的であり,極微量の物質の酸化還元を高精度で測定することができる.我々は,本法を化学物質と生体成分の相互作用(例えば,DNAとDNAインタカレータ,あるいは,酵素と阻害剤)の解析に用いる目的で研究を行った.測定には,BAS社製の電気化学測定装置を用いた.化学物質と生体成分の相互作用により化学物質の酸化還元パターンが変化することを観測する目的で,まず最初に,CV(サイクリックボルタンメトリー)法を用いて,化学物質と生体成分との相互作用を調べた.生体成分としてcalf thymus DNAを用い,化学物質としては,我々が新たに合成しDNAと相互作用することを見いだしている含窒素多環芳香族化合物のアミノ酸誘導体,および,レスベラトロール誘導体を用いた.その結果,たとえば前者の場合,DNAの濃度を0から2mMまで変化させたとき,観測される酸化還元波がDNA濃度依存的に減少することがわかった.この減少は,化学物質がDNAと相互作用することにより起きており,本法によりDNAと化学物質の相互作用が解析できることを示す.CV法では,数十μM濃度が検出限界であり,現在,DPV法への展開を検討中である.また,同様に,酵素と化学物質の相互作用の解析について,酵素として精製したグルタチオンS-トランスフェラーゼを用い,本酵素の阻害剤であるフラーレンを基質としたときの電流応答の変化の測定について,現在条件設定を行っている.
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