研究概要 |
学習障害モデル動物として確立しつつある両側総頚動脈永久結紮(2VO)ラットの結紮にともなって脳内で生ずる分子的変化を検討した。2VO処置1-3日後で白質の粗髭化および海馬での神経細胞の萎縮がみられた。また、繰条体では2VO処置7日目に脳梗塞巣が確認された。免疫学的検討により、皮質および海馬での組織的変化には樹状突起の消失が伴っていること、2VO処置3-7日後の組織障害部位には反応性アストロサイトが発現しており、30日では大脳皮質・海馬においてその顕著な増加がみられることが明らかとなった。アルツハイマー病における記憶・学習障害の治療薬として処方されているコリンエステラーゼ阻害薬THA(9-amino-1,2,3,4-tetrahydroacridine)の投与により、2VOラットの学習行動障害に改善作用がみられた。THAは術後1ヵ月以上経過したラットにおいても学習障害改善作用が認められたが、薬剤投与を中止すると学習障害が再発した。また、ニコチン性アセチルコリン受容体アゴニストであるGTS-21(3-(2,4-dimethoxybenzyylidene)-anabaseine dihydrochloride)は、2VO処置前から投与すると、学習障害および脳組織障害に対し保護効果がみられた。明らかな学習障害を生ずる術後4カ月のラット脳より Differential Display法によって、発現量が増減する因子を数種単離し、その配列を決定した。得られた因子のうち、2VOにより発現量の増大するvof-16(仮称、遺伝子バンク登録No.AB006881)は、PCR法に基づく定量から、海馬、大脳皮質に多く発現していることが認められた。海馬におけるvof-16発現量は結紮によって2〜4倍程度増大すること、ならびにその発現量の増大と学習障害の程度に相関性があるかもしれない点が、定量的PCR法により示唆された。
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