外界からの様々なストレスに対して、細胞は防御機構を発達させている。本研究では、それらストレスをまず最初に感受するであろう細胞膜に着目し、その成分変化の解析を起点に、ストレス応答に関与するメディエーター分子の解析を行っている。 前年度までの研究から、ヒト正常繊維芽細胞株(TIG-3)に熱ストレスを与えるとある種の糖脂質が速やかに産生されることを見出し、構造決定の結果、コレステリルグルコシド(CG)であることが分かった。本年度は、CGの細胞内ストレス応答における役割を解明するために、細胞外からのCGの添加が熱ショックタンパク質(HSP)の誘導に及ぼす影響、並びに、ラット胃潰瘍形成の抑制作用について解析した. 有機合成したCGをTIG-3細胞の培養上清に添加し、一定時間後のHSP70の細胞内発現量をイムノブロッティング法で定量した。抗潰瘍作用は経口投与したラットの低温拘束ストレス潰瘍モデルで解析した。 その結果、CGによるHSP70の誘導は30分以内で観察され、0.1〜10μMの濃度で十分な誘導が見られた。この誘導時間は、抗潰瘍薬であるゲラニルゲラニルアセトン添加や熱ショックによるHSP70の誘導に比べても速やかであった。また、ラットを用いたin vinoでの抗潰瘍作用について、CGはゲラニルゲラニルアセトン以上の抑制効果を示した。これらの結果は、細胞のストレス応答の初期の過程においてコレステリルグルコシドが重要な役割を演じていることを示唆する。また、細胞のストレス応答が関与した病態との関係も注目される。
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