研究概要 |
道徳的行動のモデルを構成する要素としてレストは,道徳的感受性・道徳的推論・道徳的介入・道徳的性質の4つを挙げている.このモデルによると道徳的行動を起こす起点となるのは,道徳的感受性に基づく問題の認知である.本研究の目的は,看護婦が臨床における倫理的問題を認知する契機をつくる「道徳的感受性」を測定する質問紙を作成することにある.特に,老人虐待などの倫理的問題を指摘されている老人看護の領域で働く看護婦についての道徳的感受性を測定する質問紙の作成を目指している.「道徳的感受性測定のための質問紙」については,Toronto大学で医学生の道徳的感受性を測定するための質問紙が開発されており,それを参考にして赤林らが1998年にPIT(倫理上の問題点同定力テスト)を作成し,妥当性・信頼性を検討している.赤林らの研究では,生命倫理の授業の前後で問題の認知に有意差があった.また,今後の課題としてカリキュラムの違いによる比較・臨床経験年数による比較などの必要性を挙げている.この質問紙の適用可能性を確認するために,看護系大学院生6名を対象に「看護倫理」の授業の前後にPITを実施した.その結果,問題の認知に有意差は認められなかった.この結論の違いは,教授法および対象者の臨床経験の違い,さらに得点の配分法に起因するものと推論された.また,Kim Lutzenらが作成した道徳的感受性を測定するための質問紙による調査では,精神科領域で働く看護婦と成人系の一般病棟で働く看護婦では道徳的感受性に明らかな相違が見られた.老人看護の領域で働く看護婦と成人系の一般病棟で働く看護婦との間にも道徳的感受性に違いがあることが予測される.現在,成人系一般病棟で働く看護婦および老人看護領域で働く看護婦が認知している道徳的問題について,看護婦に非構成的面接を実施し,その結果を分析中である. 平成11年度は,データの分析を進め,老人看護領域の看護婦のための道徳的感受性測定用紙を作成する.
|