レス・古土壌分析によるチベット高原の隆起とアジアモンスーンの関係の解明

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10878011
• 研究機関: 東京都立大学
• 研究代表者: 福沢 仁之 東京都立大学, 大学院・理学研究科, 助教授 (80208933)
• 研究分担者: 岩田 修二 東京都立大学, 大学院・理学研究科, 教授 (60117695)
• キーワード: アジアモンスーン / ヤンガードリアス / ハインリッヒ・イベント / レス堆積物 / 風成塵 / マール堆積物 / 関東ローム

研究概要

中国甘粛省蘭州のレス古土壌堆積物の編年を行い、過去7万年間のアジアモンスーン変動の解明を目的とした.本年度は蘭州の堆積物以外に、韓国済州島のマール堆積物と東京多摩の関東ローム層について堆積学的検討を行って、過去の夏季モンスーン変動を明らかにした.その結果、以下のことが明らかになった.
過去7万年間のグリーンランドの氷床コア(GISP2)の酸素同位体比変動と韓国済州島の泥炭堆積物の分光反射率データとの関係は、夏季のアジアモンスーン活動の指標である分光反射率がGISP2の酸素同位体比と同期して変動しており、ヤンガードリアスやハインリッヒイベントなどの突然かつ急激な寒冷イベントも認められることを示している.また、GISP2の酸素同位体対比と蘭州における風成塵フラックス(mg/cm2yr)の関係は、冬季のアジアモンスーンと北大西洋における気候変動との関係を示しており、冬季モンスーンの強まりが夏季モンスーンの弱まりに先行すること、グローバルな寒冷化における冬季モンスーンのレスポンスは急激であるのに対して、温暖化時期にはゆっくりしている.陸上堆積物についてのわれわれの研究グループの他の研究結果として、以下の3点があげられる.1)分光反射率データから、蘭州のレス古土壌堆積物においてH1からH6にあたるハインリッヒイベントとヤンガードリアスの層準が認定された.2)レス古土壌堆積物における初磁化率と風成塵量の変化は夏季および冬季のアジアモンスーン変動を復元する上で役立つPROXYになる.3)韓国済州島と中国蘭州では、ハインリッヒイベントや8.2kaイベント時には乾燥化が進行し、ヤンガードリアスの時期には降水量が増加した.
海洋や湖沼の堆積物に比べて、編年の問題や欠層の可能性が指摘されていたレス-古土壌堆積物やローム層について、層準対比による編年方法を用いて、採取した試料の予察的な機器分析を行った.その結果、中国のレス-古土壌堆積物と関東ローム層の両者においてアジアモンスーン変動などの環境変動が検出できる可能性が極めて高いことが指摘できた.

研究成果

• [文献書誌] Fukusawa,H.: "Varved lacustrine sediments in Japan-Recent progress." Quaternary Research. 38(3)in press. (1999)
• [文献書誌] Fang, X-M., Fukusawa, H.et al.: "Asian summer monsoon instability during the past 60,000 years : magnetic susceptibility and pedogenic evidence from the westernn Chinese western Loess Plateau." Earth Planetary Science Letter. 131in press. (1999)
• [文献書誌] 福沢仁之・山田和芳: "堆積物による過去75,000年間のアジアモンスーン変動の高精度復元" 地学雑誌. 107(4). 566-571 (1998)
• [文献書誌] 福沢仁之・山田和芳ほか: "湖沼年縞およびレス-古土壌堆積物による地球環境変動の高精度復元" 国立歴史民俗博物館研究報告. 35. 33-52 (1999)
• [文献書誌] 塚本すみ子・福沢和芳ほか: "中国レス堆積物のIRSL年代測定" 国立歴史民俗博物館研究報告. 35. 62-72 (1999)
• [文献書誌] Fang, X-M., Fukusawa, H.et al.: "High resolution pedogenic and rock magnetic records of Asian summer monsoon instability during the past 60,000 years from the Chinese Western Plateau." PAGES New Letter,. 6(1). 7-8 (1998)