先年度報告に引き続き今年度はさらに、アラキドン酸(AA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)を培地中にBSAを用いて添加した結果、前報告でのDMSOを使用した添加実験よりも、全体的に細胞数の変動が少なく、特にAAとDHA添加の方が細胞数維持に効果が認められた。また、海馬脳細胞の初代培養における細胞の長鎖脂肪酸の変動について、経日的に調べた結果、細胞数の変動と不飽和脂肪酸、特にAAおよびDHAの間に正の相関が見られた。これらのことは細胞膜が細胞の代謝活性を制御しているように推察された。しかし、今回のin vitro実験では、in vivoと違い、AAによる細胞障害もみられなかった。In vitroではin vivoほど細胞への刺激も少なく、AAの代謝産物であるプロスタグランジン系物質がほとんど産生されなかったためと推察した。今後は、刺激(パルス刺激および連続刺激)負荷で培養した場合のAA添加とDHA添加の状態を比較するつもりである。母性行動異常については、放射状迷路を改良したものを独自に作成し実験を行った結果、コーン油、サフラワー油(リノール酸70%含有)およびシソ油(α-リノレン酸60%含有)を給与した母ラットの母性行動において正解率および正解の場所にいる時間の長さはサフラワー油の供与されているラットがもっともよかった(傾向のみ)。この結果は食殺行動と併せて考えると矛盾しているようであるが、その行動様式から動物心理を推察すると非常に神経質な面があったと推察された。他者での実験の報告と併せて推察するとこれらの報告は矛盾しない。また、同時に海馬神経細胞の初代培養法の開発を予備実験的に行った。その結果は長期培養にも対応でき、種々の解析に使えそうである。
|