本研究は、開発途上国の科学教育の現状と課題を、相互に或いは先進諸国の開発過程と比較しながら包括的に考察し、当該分野の国際協力に新しい展望を拓くことを目指している。第一段階として今年度は、先行研究を整理・分析し、開発途上国における科学教育(理数科教育)の現状と課題の類型化を行った。作成した文献リストは、今後この分野で研究を進めるための重要な基礎資料となるはずである。加えて、当該分野の国際協力の側面から検討した調査研究報告も収集した。その結果、これまでの議論は、(1)カリキュラム、(2)実験、(3)教員、(4)評価の4通りに大別できることがわかった。特にカリキュラムの開発においては、「費用対効果」及び「文化・言語」の観点から考察を加えた研究が多い。たとえば、実験中心の科学教育を推進することに対し、「費用対効果」の観点からは否定的なものが少なくない。「文化・言語」についても、それが学習者に及ぼす影響について認識論から研究されたものが多い。 これだけ膨大な先行研究が世界に存在するにもかかわらず、日本が新たな理数科分野の協力を行う際、これらの知見はほとんど活用されていない。これは、日本側の事前の調査が相手国より提供された資料や相手国の要望に基づいて行われ、学校レベルの調査や他援助機関の経験がフィードバックされていないことも一因であると考えられる。 今後、途上国における科学教育の問題点や課題を更に類型化・比較考察し、国際協カの面からその構造と特質を明らかにしていく計画である。また、事例研究として、フィリピン・ケニア・南アフリカ・ホンジュラス等での日本の協力事業を取り上げる予定である。
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