今年度は、次元形容詞と名詞との結び付きを検討するための予備的な作業としてランダムに選定した新書類10冊から形容詞と名詞の結合例を収集し、それと並行して、形容詞一般と名詞との結合パターンについての検討をまずおこなった。 その結果、まず装定用法から述定用法への転換を行った場合に不自然になるか、もとの表現と異なる意味になるパターンとして、少なくとも4つのものが区別された。 一つは形容詞と名詞が同義的内容を持つ場合(例「古い昔」)、二つ目は節による修飾などの場合に外の関係と呼ばれるものに類似したもので形容詞が一種の引用的な機能を持ち、名詞がその発話行為種類を命名するような機能を果たしているもの(例「寂しい気持ちになる」)、三つ目は形容詞が名詞句内の一部の要素の意味にかかわるもの(例「厳しい批判者」)、四つ目は形容詞が名詞の指示対象に対する評価を示すもの(例「楽しい誤解」)である。 このような結果から名詞の指示のあり方によって形容詞のかかわる対象のあり方も様々であることが推測される。一方次元形容詞と抽象名詞の結合においては装定から述定への転換の可能なものが多いが、これは次元形容詞と抽象名詞の結びつきが上に挙げた4つのパターンとは異なる結びつきをしているということが予想される。今年度の作業から以上のような結果を得た。
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