研究概要 |
今年度は,前年度に引き続き新書類などからの形容詞の用例収集を行い,それらの用例に基づいて7組の次元形容詞の用法について,具体的物を対象とする用法(空間的用法)と非具体物(非空間的用法)の2つの用法間での意味のあり方を検討した。その結果,空間的用法ではどの形容詞も空間内に存在する対象の空間量を表現するものである点で共通しているのに対して,非空間的用法によって表現するものの意味領域は必ずしも一様ではないことが見いだされた。例えば「高い」は,「高い関心」など対象の顕著さあるいは価値について言及するものであるが,「長い」は「長い話」など時間量を表現するものとして使われている。しかし,このような非空間用法での意味のあり方は,空間用法における性質の違いを反映したものになっていると考えられる。空間用法では,対象がなにものかの一部として捉えられている場所系(高低など)と,独立したものとして捉えられるモノ系(長短など),汎用系(大小)と分類できると思われるが,場所系の形容詞では対象の内的な性質に注目したものになっているのに対して,モノ系のものでは外的な属性に注目したものになっている。また、モノ系では「長い」が時間を対象とするのに対して,「太い」が人間関係の強さを示すことが多いなど,意味領域により大きなズレが見られる。また,「大きい/な」は空間的用法ではいくつかの次元形容詞と分布の重なりを持っていたが,非空間的用法では「大きな意義」など独自の分布を持つものになっているのも特徴である。また,形容詞の意味のあり方を検討するために接辞「〜まる」「〜み」のつく形容詞と意味を検討した。その結果,ここでもこの2つの接辞の接続条件として,両接辞ともに対象(名詞)に何らかの内的な変化要因を持つことが共通の特徴であることが予想された。
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