研究概要 |
我々が顔識別実験に利用してきたサルの顔ニューロンは、顔部品や部品間距離に応答する12個のニューロンである。この12個の顔ニューロンのいずれか一つを順番に欠落させて行った前年度の顔識別実験では、1番目のニューロンのみが顔の識別率に殆ど影響を与えないこと、および、他のニューロンの顔識別結果への貢献度はほぼ等しいことを明らかにした。被験者グループを変えて実施した今年度の確認実験でも、前年度と同じ結論が得られた。 以上の結果より、残った11個の顔ニューロンの独立性について検討した。各ニューロンの独立性が高いほど、より高精度の顔識別が期待できるが、顔ニューロンは顔部品のサイズや顔部品間距離のべき乗の積で定義されており、独立ではない。また、各ニューロンは物理特徴を最も良く区別するよう、統計処理により定義されたものであり、物理的な定義が与えられているわけではない。しかし、結果として定義された12個のニューロンを物理的に解釈すると、1と8,2と3と7の相関が大きく、また、3と4にも積極的な関係が認められる。2つ以上のニューロンを欠落させると確実に識別能力が落ちるのは前年度に報告した通りであるが、2つ以上を落とす場合の組合せに、識別能力の差を生じることも実験により確かめられた。 顔ニューロンは無表情の顔提示により得られており、電気生理学的にみた表情の影響は不明であるが、本研究では、各人の無表情画像を基準データとして、笑い、怒り、悲しみ、驚きの4種類の表情をした12名の被験者のサンプルデータを用いて顔の識別実験を行った。その結果、表情変化によって顔ニューロンによる顔識別率は低下はするものの、70%程度は表情変化の影響を受けないことがわかった。判定に利用しているニューロンは、サルがヒトの顔を同定する際に発火する顔ニューロンであることを考えれば、表情変化の影響を受けにくいのは合理的な結果と考えられる。
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