研究概要 |
LAN,WAN等の通信ネットワーク上のトラヒックが、自己相似性あるいは長時間依存性をもつことが統計的研究によって示されて以来、この性質がトラヒック設計や性能評価モデルの構築に如何に関わるかに数多くの研究者の関心が寄せられ、自己相似性をもつ時系列の生成やその統計的検証に関する研究が近年精力的に行われている。本研究では、こういった統計的研究とは一線を画し、自己相似入力(到着)過程と通常の再生過程に従う出力(サービス)過程をもつ待ち行列を、拡散過程近似の枠組みでモデル化することをその目的としている。 平成10-11年度を通じて、上記の入出力をもつ待ち行列の系内客数過程を近似する拡散モデルを構築し、系内客数の確率密度関数が満たす偏微分方程式と境界条件を導出したが、残念ながら解析的な閉じた解を得るには至らなかった。この困難さは、バースト性の高いMMPPを入力とする拡散近似モデルにおける困難さと本質的に等価であると考えられる。この偏微分方程式を数値的な解法により解くことは可能であり、バッファ設計に重要な系内客数がある値以上をとる確率(tail distribution)等の数値的過渡解を導出した。しかし、数値解だけでは性能評価モデルとしての有用性は低いと言わざるを得ない。自己相似入力過程をもつ待ち行列では、通常性能評価尺度として使われる定常分布への収束が非常に遅いことが統計的研究によって知られており、閉じた過渡解あるいはその近似解を導出することが不可欠である。今後、この方向への研究を進めると同時に、解析的により容易なフラクタル・ブラウン運動過程を用いたNorrosのモデルを拡張するする方向についても考察する予定である。
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