危険を感ずるものに対する認知(リスク認知)は大きな個人差がある。とりわけ情報の送手である専門家と情報の受け手である一般社会人の間に大きな差があり、この隔たりが専門家と大衆のリスクコミニュケーションの大きな障壁になっている。しかしリスク認知のような心理学的研究はきわめて遅れている。本研究の目的の第一はリスク認知の定量化法の確立である。我々は4年前からその定量化のための調査表の開発を進めてきた。この調査表ではリスク認知の構造を調べるために、文字でなく絵文字を用いた。第二の目的はこの調査表を使って調査する集団のリスク認知の特性を明らかにすることである。診療放射線技師の教育の場はこのことを研究するよいモデルである。この大学生を対象とした調査では、放射線教育の内容と時間数がわかるので、リスク認知に対する教育の影響を調べることができる。絵文字毎に関心と危険についてどう感ずるか調査した結果、大学1年生では、危険を感ずるものに対して関心を持たないという興味ある結果が得られた。これは危険を感ずるものに対する心理学的な逃避、反発である。危険を感ずる因子分析では、6因子を抽出した。因子1は「恐ろしさ」の軸、因子2は「ニュース性」の軸、因子3は「経過時間」の軸とそれぞれ意味づけた。リスク認知の心理過程の一端を明らかにしている。本研究ではリスク認知に対する教育効果の初めての定量的な結果が得られた。リスクに対する感じ方は、リスク教育が進行すると共に少しずつ成熟してくるが、大きくは変らない。もっとも教育によって変るのはリスクを感ずるものに対する関心のあり方である。分析が進めばその内容が明らかになると思われる。
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