近年、環境変異原物質のリスクをよりヒトに近い形で評価するためにマウス個体を用いて測定する系が開発され始めているが、これまでに作られたものはすべて標的とする遺伝子が細胞内で発現していない状態であり、得られたデータを通常の発現している遺伝子に外挿するには問題を残していた。この点を改善すべく、蛍光蛋白をマウス各組織で高発現するよう工夫されて作られたGFPマウスが、突然変異検出用に使えないかどうかを検討した。用いたマウスは阪大の岡部博士より分与を受けた。このマウスは体表のすべてでGFP蛍光の強い発現が見られ、体内の各組織でも強弱はあるものの、蛍光が観察された。しかし脾、肝、胸腺、骨髄、睾丸のスメアを作り、各細胞レベルで見ると、数%から数10%の細胞がほとんど蛍光を発していないことが分かった。細胞の観察方法をさまざまに変えてみても同じ結果であった。さらに赤血球が蛍光を出していないのでこの分はノイズとして入ってくることが分かった。マウスに5Gyと8Gyの放射線を与えた後1週間後に調べた結果でも有意な差は見いだせなかった。同様のことは胎児から培養細胞を作ってみても観察され、発現が約5%のオーダーで不均一であり、ここでも10Gy放射線照射による変化は見られなかった。突然変異は0.001〜0.01%のオーダーで起こることが予想されるので、このGFPマウスは突然変異検出の目的には適当ではないと結論された。この系で使われているプロモータよりさらに強力で、全細胞での発現を促すプロモータの開発が今後の課題である。
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