研究概要 |
我々が基質遷移状態概念に基づいて開発した,選択性が高く活性の強いHIVプロテアーゼ阻害剤(KNI-272)は細胞毒性が低く,HIVプロテアーゼ活性中心に特異的に作用することにより,理想的な抗エイズ薬として期待されているものの薬剤耐性HIVの出現はエイズ克服のむづかしさを示している. そのような状況において,変異プロテアーゼと阻害剤の相互作用の解析の結果,基質との相互作用の低下も推測され,酵素機能低下とそれを原因とする変異ウイルスの病原性の低下をもたらすのではないかという着想に至った.この推論は,HIV感染後長期未発症現象の原因の一つとして弱毒ウイルス説を提起し,HIVと人類の共生の可能性を示唆するものである.そこで薬剤耐性ウイルスの分子構造解析を行い,変異酵素・抗エイズ薬複合体との構造に基づいて,変異HIVプロテアーゼと基質との相互作用の低下と酵素活性の関係を明確にする.さらに酵素活性とウイルス病原性の因果関係を化学構造レベルで解明してHIVと人類の共生の可能性を探ることを本研究の目的とした. 我々が開発し,現在米国NIHで臨床研究を進めているキノスタチン(KNI)-272に対する感受性低下ウイルスを同定し,そのプロテアーゼのアミノ酸配列に基づいて変異酵素を遺伝子工学的及び合成化学的に作製した.この変異酵素と抗エイズ薬との相互作用を解析し活性型コンフォメーションを考察した.更に,変異HIVプロテアーゼの酵素活性と感染性との関連性を検討した. 相互作用解析に基づいて,抗エイズ薬を分子設計し合成を行い抗ウイルス作用の測定を行い,変異酵素に対して阻害活性を示すKNI-241を見いだした.また,変異HIVプロテアーゼ・抗エイズ薬複合体の構造解析を行った.
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