核膜・粗面小胞体膜の解離・再会合の現象は細胞周期に伴うものであるが、その前半の解離・消失の部分に着目すると、この現象は細胞周期のみならず、細胞の分化等に伴い生ずることが知られている。細胞周期に伴うものと細胞分化に使うものとが同一現象であるがどうかは議論のあるところではあるが、今回は後者についてその機構をin vitro系を確立することにより解析し、極めて興味深い結果を得たので報告する。 我々はT cell receptor α subunit(TCR α)を指標とするin vitro系を確立した。TCRαを網状赤血球由来の無細胞蛋白質合成系に於いて、犬膵臓由来の粗面小胞体ベジクル(KRM)存在下に翻訳合成させると、その分子の大部分がKRMの内腔に露出した形でKRMの膜に膜蛋白質として組み込まれた。KRMには糖鎖の添加も組み込みに伴って生ずるが、さらにその糖鎖末端のグルコース残基の切断も生ずることが判明した。TCRαが組み込まれたKRMを高塩濃度で洗浄し、超遠心により回収後、緩衝液に懸濁し、37℃に4時間保ったが、顕著な変化は認められなかった。次に網状赤血球のライセートを加えたところTCRαは急速に分解された。グルコース残基の切断を抑制するCastanospermine存在下では膜へ組み込まれたTCRαはライセート存在下と同様急速に分解された。この系をもちいて、網状赤血球ライセート中の因子を精製したところ15-Lipoxygenaseが得られた。これが粗面小胞体膜のリン脂質を酸化し、粗面小胞体内腔に存在するプロテアーゼによる膜蛋白質の分解を惹起することが、赤芽球から網状赤血球への分化に伴う粗面小胞体消失の機構であることが示され、さらに同様の機構がapoptosisに於いても働いていることも示唆された。
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