細胞膜上の膜脂質を直径30nm程度の金コロイドで標識し、光学顕微鏡下で、生細胞の細胞膜での脂質の運動を、1分子レベルで、空間精度1nm、時間分解能0.1ミリ秒で追跡することに成功した(一粒子追跡法、金コロイドを細胞内にいれ、細胞質側からも観察できる)。さらに、レーザー光ピンセットを用いて金コロイドを捕捉し、脂質を細胞膜上で強制的に動かすことにも成功した。つまり、我々は膜脂質の運動を1分子のレベルで観察したり、その分子に力をかけたりできるようになった。 このような、膜脂質1分子の運動の観察と操作の実験から、意外な事実がわかってきた。すなわち、固相と液晶相の中間の性質を持った膜ドメインの存在が確認できたのである。ドメインの大きさは50nm程度と小さい。不飽和脂質はそのドメインを避けて運動する。一方、飽和脂質はそのドメインに多く分配し、その中ではゆっくり動く。飽和脂質は、TritonX100で抽出した後に残る細胞膜や、10相ドメインを含むリポソーム中でも、似た挙動を示す。これらは、細胞膜においては、固相と液晶相の中間の性質を持つ10相ドメインの島が、(より液体的な)バルク相の海の中に浮かんでいる事を示すものである。 (ドメインサイズが小さいため、従来のビデオ速度[時間分解能33ミリ秒]では観察できない。時間分解能を330倍改善し、0.1ミリ秒までに高めた結果、このような観察が出来た。)
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