生体分子の細胞内の局在を1分子レベルで調べる場合に問題になるのは、分子のブラウン運動である。通常の生体分子は1μmの距離を1msで自由拡散してしまうので、ビデオでイメージングすることは困難である。そこで、生物試料を液体窒素で冷却・凍結してブラウン運動を抑え、そのまま観察できる顕微鏡システムの開発を行った。顕微鏡用冷却装置(LK600:リンカム社)を倒立顕微鏡用に改造し、さらに作動距離が短く開口数の大きいレンズが使えるように改良した。この装置では、液体窒素を用いて-190℃までの冷却が可能である。また、冷却速度は100℃/分までプログラム可能である。まず、生物試料を様々な速度で冷却・加熱し、凍結・解凍の障害を評価した。モデル細胞としてヒト赤血球を凍結した。ガラスに挟まれた試料は冷却速度にかかわらず-20℃付近まで凍らなかった。過冷却状態の試料は、ビデオの1フレーム以内(33ミリ秒)以内に急速に凍結した。位相差顕微鏡による観察では、凍結試料に大きな構造変化は認められなかった。しかし、解凍すると全ての赤血球は体積変化による膨張で破裂して顕微鏡では見えなくなった。解凍による障害は、溶液にDMSOを添加し加温速度を10℃/分にコントロールすることにより防げたが、凍結時にDMSOが析出して不透明になるため顕微鏡観察には適さなかった。凍結時の細胞内の微細構造をより高分解能で評価するためにGFP-微小管を発現したA6細胞を凍結し、微小管構造を観察した。微小管は凍結時にも観察され、試料が破壊的な傷害は受けていないことが分かった。また、冷却時にGFPの蛍光強度の増強が見られ、凍結が蛍光観察に有利であることが分かった。
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