本研究の目的は遺伝子とそれを認識し結合す蛋白質との複合体を直接観察することであった。そのため、原子間力顕微鏡などのいくつかの方法を用いたが、良い結果は得られず、結局これまでの低角度回転蒸着法を改良して用いることになった。それでも従来の低角度回転蒸着法をより高真空中で行うこと、および試料を冷却することによりさらに分解能を上げることができた。本研究ではプロモーターladUV5を含む600〜1000塩基対のDNAをテンプレートとし、大腸菌より精製したRNAポリメラーゼ(以後RNAP)を用いて転写過程の形態学的側面を明らかにしようとした。その結果、RNAP/DNA複合体の構造をを明瞭に観察できた。nonspeciflc複合体では多くのRNAPがDNAに付着するが、接触ではなく抱え込むように結合していることが明らかとなった。また、RNAPの結合方向がまちまちであることから、DNAとRNAPとの結合には回転方向の自由度があり、mRNA合成中にRNAPが回転しながら進行している可能性を示唆している。Open complex複合体の形態学的の大きな特徴はRNAPを頂点としてDNAが折り曲げられることであるが、よく観察すると3′側においてDNAがRNAPから出てきているところでさらに強いkinkが認められた。RNAPはβとβ′と思われる大きなサブユニット2個とαサブユニットと思われる小さな相同型のサブユニット2個が積み重なった構造として観察され、この2βと2αとの間に形成される大きなチャンネルをDNAは貫通していた。しかし、RNAPの内部でさらに蛇行しているのかどうかは表面観察からでは解らない。Elongation complexでは短くて細いmRNAがβとαとの間のチャンネルからテンプレートDNAとともに出てくるところが観察された。
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