ゾウリムシなどの単細胞繊毛虫類でみられるCytotaxisと呼ばれる現象は、表層繊毛列の配列が遺伝子の違いには関係がなく、旧いパターンが新しく作られるパターンを決定するものである。この現象の解析することにより、オネガネラのセルフアッセムブリーによる形態形成という多細胞生物では解析の難しい、しかし、形態形成解析には重要でユニークな解析を目指し、本年度は材料の検討のため、細胞の切断と再生を観察し、以下の結果を得た。 1) Paramecium multimicronucleatum:細胞体を半分で切断した場合、縦および横のいずれの切断でも、細胞は死に至る。口部装置を含む約1/3で横切断したときには、小片からは再生しないが、大片からは再生する。その場合、細胞後半部位からの再生率が高い。 2) Blepharisma japonicum:P.multimicronucleatumより高い再生能を有し。細胞体の横切断では、後端の1/4片からも25%の細胞が完全な細胞体まで再生した。縦切断の場合、口部装置側(腹側)が背側より再生率は高く、再生過程で切断面を挟むように2つの突起を出してから完全な細胞体になるという、特異な過程を辿った。 これらの結果は、繊毛虫の口部装置が形態形成には重要であることを再確認するものであるが、同時に見掛け上の口ではなく、細胞咽頭部の重要性を示唆する。また、Blepharismaで細胞を縦切断したとき、再生過程で2本の突起状の伸長があることは繊毛列の複製を伴ってなされているはずであり、統合された細胞体まで完成するときに必須の過程であると考えられる。この特異な伸長がなぜ必要とされるのかを明らかにすることは、形態形成の法則を見出すための鍵となる現象であると示唆される。
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