今年度は、斑紋形成の解析に使用するシロオビアゲハ終令(5令)幼虫、前蛹、蛹の各発生段階における翅芽のラクナ、気管系および翅脈の形態形成について発生解剖学的記載を行った(鱗翅目に拡大しても最新の記載は1935年Hermut Kuntzeに遡る)。 1. 5令幼虫24時間目に、将来、成虫翅脈が形成される部位にラクナ(組織の空隙)が認められた。これは第一次気管の侵入開始以前であり、その空間配置は成虫翅脈相に見事に対応していた。すなわち、その配置はなんらかの『空間情報』により決定されることが強く示唆され、この時期のMAPキナーゼ(dp-ERK)の発現に強い興味がもたれた。 2. 成虫の白帯は第一次気管に厳密に対応した位置に形成され、誘導的関係にあると考えられた(日本動物学会第69回全国大会(1998)で発表)。この時期におけるMAPキナーゼの発現パターンの記載の準備として、第一次気管についてその形成から退化まで(5令初期〜蛹後期)の構造と機能の記載を完了した(日本動物学会第70回全国大会(1999)で発表予定)。 3. 蛹初期に第一次気管から伸び出す毛細気管糸状体の数が鱗粉細胞列の数と等しいことが判った。一方、鱗粉細胞は転写制御因子acute-scute遺伝子群を発現し神経芽細胞(末梢感覚毛)と相同であり、神経芽細胞はMAPキナーゼ(dp-ERK)系によって分化が動き始めることが1998年に発表された。すなわち、鱗粉列形成期から鱗粉分化期の細胞『状態』のマーカーとしてMAPキナーゼ(dk-EPK)はきわめて優れており、鱗粉列形成、鱗粉分化の過程におけるその発現パターンの記載に大きな期待がもたれる情勢となった。
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