中枢神経再生のための新しい細胞移植の試み

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10878137
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 井出 千束 京都大学, 医学研究科, 教授 (70010080)
• 研究分担者: 溝口 明 京都大学, 医学研究科, 助教授 (90181916)
• キーワード: 中枢神経再生 / 脈絡叢 / 上衣細胞 / 脊髄移植 / 培養

研究概要

シュワン細胞に代わる中枢神経系への移植細胞として脈絡叢上衣細胞を提案してその効果について調べてきた。上衣細胞は中枢神経系の細胞のため他のグリア細胞との間に基底膜のバリヤーをつくらないという特性があり移植細胞として有利と考えられる。
ラットの脊髄後索に第四脳室脈絡叢の細片塊を植えて、再生軸索の伸長が促進されるかどうかを調べた。損傷部に何の組織も移植をしない、あるいは結合組織など非神経組織を移植した対照実験では極く僅かの再生軸索が伸びたに過ぎない。しかし脈絡叢の移植では、移植片に沿って無数の再生軸索が損傷部内に伸びていた。また細胞をDiIまたはCFSEで標識し、再生軸索を抗ニューロフィラメント抗体で染色して、共焦点レーザー顕微鏡で観察することによって、再生軸索が移植細胞に沿って伸びていることが明らかとなった、電子顕微鏡レベルでも、上衣細胞と再生軸索の接触が確認され、上衣細胞が神経再生の有効な支持細胞となることが分かった。
上のことはin vitroにおいても確かめられた。すなわち、培養上衣細胞の上に脊髄神経節細胞を共培養し、脊髄神経節細胞からの神経突起の伸長を調べたところ、アストロサイトをフィーダー細胞として用いた場合に比して、はるかに多くの神経突起がより長く伸びることを確認した。このことは上衣細胞の表面物質又は培養上清に存在する物質が神経軸索伸長に有効であることを示すものである。.今後は表面物質および上清の栄養因子の検索を行って、脈絡叢上衣細胞の機能を明らかにする。

研究成果

• [文献書誌] Ide C.: "Peripheral nerve regeneration." Keio University Symposia for Life Science and Medicine,Vol.2 Neural Development.K.Ueyama,K.Kawamura,T.Yazaki(Eds).2. 501-505 (1999)
• [文献書誌] Ide C.: "Long acellular nerve transplants for allogeneic grafting and the effects of basic fibroblast growth factor on the growth of regenerating axons in dogs." Exp.Neurol.,. 154. 99-112 (1998)
• [文献書誌] Senoo E.: "Effects of prelesioned peripheral nerve graft on nerve regeneration in the rat spinal cord." Neurosurgery,. 42. 1347-1356 (1998)
• [文献書誌] Shirasu M.: "Localization of tyrosine-phosphorylated protein in cultured mouse dorsal root ganglion neurons." J.Orthopad.Res.,. 16. 690-696 (1998)
• [文献書誌] Kitada M.: "Comparison of the axonal and glial reactions between the caudal and rostral border in the cryoinjured dorsal funiculus of the rat spinal cord." Res.Neural.Neurosci.in press.
• [文献書誌] Morihara T.: "Distribution of synaptosomal associated protein 25 in nerve growth cones and reduction of neurite outgrowth by botulinum neurotoxin A without altering growth ・・・" Neuroscience.in press.
• [文献書誌] 井出千束: "神経の再生.Annual Review 神経1999" 中外医学社, 419 (1999)