研究概要 |
海馬CA1領域での長期増強には,mitogen-activated protein kinase(MAPキナーゼ)活性化反応が伴うことが報告され,私達の研究においても同様の研究を行った。MAPキナーゼ活性化反応は,細胞増殖因子によって惹起される経路は詳しく研究されている一方,グルタミン酸,アセチルコリンなどの神経伝達物質によって活性化される経路については不明な点が多い。後者の機構を明らかにすることで,神経活動依存性に促進する遺伝子発現機構を明らかにし,学習,記憶の成立機構を解明する糸口が得られると考えられる。1)海馬初代培養細胞を用い,イムノブロット法により,42-,44-kDaMAPキナーゼの存在を確認した。2)成熟ラット海馬切片を用い,CA1領域への入力線維に電気的高頻度刺激を与え,長期増強(LTP)を誘導した。LTP誘導後,CA1領域を切り出し,組織抽出液中のCaMキナーゼIIとMAPキナーゼ活性化反応をin-gelassay法を用いて測定した。MAPキナーゼ活性は,LTP誘導後3分でピークを示し,その後急速に減少し,60分で元のレベルに戻った。2)MEK阻害薬PD098059を用いて調べた。50μMPD098059はLTP誘導を阻害し,CaMキナーゼII,MAPキナーゼ活性化反応ともに阻害した。しかし,濃度を30μMに減少させると,LTP誘導を阻害しなかった。酵素活性ではCaMキナーゼII活性化反応を認め,それに対し,MAPキナーゼが阻害された。LTP誘導とCaMキナーゼII活性化反応は相関しており,MAPキナーゼ活性化反応は相関していないことが明らかになった。
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