研究概要 |
初老期に発病し、進行性痴呆疾患であるアルツハイマー病大脳の特徴的変化は、老人斑アミロイドの沈着と神経原繊維変化の出現および広範囲な神経細胞の脱落が挙げられる。老人斑アミロイドは、正常な神経終末で発現しているAPP(amyloid precursor protein,アミロイド蛋白質前駆体)と命名された蛋白質が何らかの原因で切断されて、細胞外に伸びている部分の一部の蛋白(βアミロイド蛋白質)が神経終末内に取り込まれることによると考えられている。申請者は、脳神経回路のモデルとして培養下で形成したシナプスを用いて、まず第一に、正常な蛋白質であるAPPの生理的機能、特に脳神経回路ネットワークの中継点(シナプス)において信号伝達を担う神経伝達物質の放出の調節をすることによってシナプス伝達の変調をしている可能性を明らかにしようと試みた。APPの神経終末内に伸びている部分の蛋白の抗体、およびその再合成ペプチドの神経終末内への導入によって神経伝達物質放出は抑制されたが、コントロールとして導入したアミノ酸配列を変えたペプチドおよび血清抗体、または抗体と再合成ペプチドの混合物の導入によっては影響されなかった。これらの実験結果から、1)APPは、培養下で形成したモデルシナプスでも発現していること、2)APPの前終末内に伸びている部分は、ほかの蛋白質と相互作用して神経伝達物質放出機構のある過程に直接関与し、開口放出効率を調節していることが示唆された。そこで、APPを過剰発現させたモデルシナプスで、シナプス伝達効率の変化をみる実験を行うためにアデノウイルスを用いて強制的にAPPを発現させることを試みたところ、ウイルス感染3日後から外因性のAPPが発現してくることが確かめられた。APP過剰発現での光学的観察による神経細胞の形態変化は認められず、電気生理学的機能解析が出来る実験条件を確立するに至った。
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