発生過程において小脳顆粒細胞は、外顆粒層で増殖分化し、グリア細胞を介して移動、内顆粒層にたどり着きシナプス結合を行うと考えられ、それぞれの層でアポトーシスを行うことが知られている。生後一週間のラット小脳全体より単離した小脳顆粒細胞を通常のK+濃度(5.4mM)下で培養すると、細胞は突起伸長・細胞肥大等の分化の後、変性を始め、死滅する。この細胞死は脱分極剤、BDNFなどにより抑制され、アポトーシスの特徴をもつことが明らかになった)。この過程で起こる遺伝子発現をノーザンブロット法により調べると、c-junは細胞死に伴い弱く誘導された。これに対して。cyclin D1(3.7kbp)は顕著に誘導された。抗cyclin D1抗体によるウェスタンブロットによっても増加が確認された。免疫組織化学では顆粒細胞の核のみならず、細胞死に先行して細胞質も染色されることが見出された。更に、この細胞死はミノシンなどの細胞周期阻害剤によって抑制された。この未熟な顆粒細胞で見出された。cyclin D1の顕著な誘導は成熟した顆粒細胞では起こらなかった。この結果はin vivoにおけると免疫組織化学的実験と符合すると考えられる。更に、外顆粒層のみを単離培養して、神経栄養因子などの効果を調べた。その結果、小脳全体を分散培養した場合と異なって、BDNFは細胞死を抑制しなかった。このため、BDNFの作用に関して、分化した顆粒細胞に対してはBDNFは細胞生存を促進するが、細胞増殖系の神経前駆細胞に対しては異なる作用を持つと考えられた。
|