記憶学習の基礎機構である神経可塑性には各種の分子が関与していることが知られている。長期記憶においては可逆的な機構や各種分子の代謝が観察される細胞内の各種信号伝達系の変化のみにより可塑性が保たれているとは考えられず、神経細胞の形態変化等による神経可塑性の維持が仮定されてきた。事実、脊椎動物の海馬LTPにともなうシナプス構造の変化やアメフラシの記億に伴う感覚神経細胞の形態変化等の最近の報告はこの仮説を指示する。神経細胞の形態変化は細胞外マトリックスや細胞接着分子を含む細胞間相互作用を仲介する分子群が関わっていると考えられている。本研究では細胞外マトリックスの再編成に関わる分子の特徴付けを行った。 アメフラシ神経節の細胞外マトリックス画分には、MMP2に類似する分子量約7万の分子ゼラチン分解活性とストロメライシンに類似する分子量約4万のカゼイン分解活性分子が存在した。いずれのMMP活性も金属キレート剤により強く阻害され、4aminophenylmercuric acetateによる前処理で低分子量に対応する分解活性が増加した。この結果は、脊椎動物で示されている自己分解による高分子量前駆体からの低分子量活性分子の生成を示唆している。 アメフラシの非連合学習である感作を引き起こす事が知られているセロトニン(195±12%)、感作を担うシナプス伝達の促進を引き起こすTGF-β処理でカゼイン分解活性は3時間後では約2倍に(206±12%)、24時聞後でも40-50%の増加(158±17%、137±12%)していることが観察された。脊椎動物のMMP活性は細胞外マトリックスの再構築と密接な関連がある事から、感作に伴って観察されている神経細胞の形態変化にアメフラシMMPの活性変化が重要な役割を果たしていることが示唆された。
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