研究概要 |
本研究の目的は、顕微鏡内に設置した鋭利なレーザービームを用いて単一細胞レベルの微細組織を摘出し、それに含まれる神経伝達物質やそれに関する諸酵素活性を微量定量し、レーザービームによるこの微細摘出法が脳機能研究に応用できるかどうかを検討することであった。 従来単一細胞レベルの微細組織の摘出にあたっては、凍結乾燥組織から単一細胞レベルの微細部位を微小ナイフを用いて顕微鏡下に手(free hand)で摘出していた。しかしこれには摘出組織の大きさに限界があり、直径80-100μ以下の細胞を摘出するのは不可能であった。本研究にあたっては、レーザービームを用い、顕微鏡下に単一細胞および微細組織を摘出してGABA(γ-アミノ酪酸)、GAD(グルタミン酸脱炭酸酵素)、ADA(アデノシンデアミナーゼ)を測定した。まず、レーザービームで組織を摘出するにあたってレーザーで摘出した微細部位周辺が、微細ではあるがレーザービームで破壊される可能性があるので、GABA,GADそしてADAが高濃度、高活性に均一に分布する上丘浅灰白質層について約200μm平方の部位をレーザー光線で10×10μm,30×30μm40〜50μmの連続する四角形に切り、それらの組織に含まれるGABA,GAD,ADAを酵素循環法を用いて微量定量した。その結果GABAは40〜45mmd/kg/day,GADは200〜240mmd/kgdry/60min,ADAは300〜350mmd/kgdry/60minであり、手で摘出した大きな部位の値と一致し、レーザービームによる直径10μ〜50μの単一細胞レベルの微細組織の神経伝達物質の定量が可能であることが明らかとなった。この方法を用いて脳内の様々な神経核(大脳、小脳層機能、上丘層構造、ダイテルス核の小部位)や単一細胞(ダイテルス細胞、ブルキンエ細胞、脊髄運動細胞、大脳皮質錐体細胞、海馬錐体細胞)におけるGAD,GABA,ADAの分布を明らかにした。本研究によってレーザービームによって単一細胞レベルの脳組織の摘出が可能となり、様々な条件下でのその組織に含まれる伝達物質や脳内活性物質の定量をすることにより神経機能の解明に重要な貢献をすることになる。
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