研究課題
明治以来の日本中国史学の伝統と、1980年代以降の主に新出資料に、よる研究の新展開、及び近年唱えられて久しい近代歴史学の見直し、中国史研究を取り巻くこうした研究環境の現況を踏まえ、中国とは何かという古く、しかし極めて今日的な課題に答えるために日本の中国史学界は、世界に何をいかにして発信すべきか、準備会は数年来の検討を重ねてきた。その結果、中国語圏、英語圏と日本が、世界の中国史研究の三極を占める現状に鑑み、各地域が最も緊要とする課題を設定し、それぞれが背負う学問的伝統を自覚しながら国際会議を順次開催するという構想が浮上した。その第1回会議を日本が主催することになり、科学研究費企画調査の助成を受けて、構想の具体化を進めてきたのである。4回の公開シンポジウムと科研費分担者討議から、日本での会議の統一課題を「中国の歴史世界ー統合のシステムと多元的発展ー」とし、2000年9月に開催することが決定された。中国は、古代以来王朝国家として一貫したアイデンティティーを維持してきた史上稀有な歴史をもつ存在である。と同時に近年の新出資料が明らかにしつつある如く、その歴史世界は決して単一なヒエラルキーから出来上がっているのではなく、さまざまな要素が多元的、重層的に渦巻き、衝突する世界でもあった。それにもかかわらず、独自のシステムの下で一つの歴史世界に統合され続けたことにこそ中国の中国たる所以がある。主権国家体制の何らかの変化が予測される今日、独自の統合システムの解明は大きな意味をもつことになろう。