研究概要 |
アメリカへ渡航しGage研究室を訪問したことによって、神経系幹細胞の培養方法を習得し、また最適な網膜移植法の検討を行った。 Gageが確立した海馬由来神経系幹細胞(LacZ遺伝子でマーキング済み)を、生後5日以内の幼若ラット網膜に移植すると、2週間では移植細胞は網膜表面に付着するのみであるが、移植後4週間では移植細胞は多数網膜内に侵入、分化した。移植細胞の形態は、視細胞、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞に酷似し、しかもそれぞれの細胞に適した層に生着していた。このような現象はコントロールとして使用した線維芽細胞や死滅させた幹細胞などではおこらなかった。 生着した神経系幹細胞を様々な網膜細胞特異抗体で免疫染色を行ったところ、移植した細胞の中にはGFAPおよびS-100β、Map2,5などグリアあるいは神経のマーカーは陽性のものがあったが、HPC-1、opsinなど網膜神経に特異的な蛋白は陰性であった。このことは移植した未分化な神経系幹細胞は環境因子に反応し神経やグリアに分化するが、網膜細胞へと完全に分化するためには、さらになんらかの内因的あるいは外因的因子を要することを意味する。 以上の結果を受けて、今後の研究の方向性を検討し、不足している内因的因子としてRxなどのhomeobox遺伝子をアデノウイルスをもちいて導入し、網膜細胞への分化を促すことを計画しており、そのためのRx,Crx,Chx10のhomeobox遺伝子を入手した。また、今回は海馬由来の神経系幹細胞を用いたが、網膜から神経系幹細胞を培養することにより、網膜細胞へ分化しやすい幹細胞を得ることも計画している。
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