研究課題
平成13年度は、各部門において研究段階から応用の域に達した開発研究も少なくない。また、従来からのデータを整理し、考古科学分野としてのデータベースの構築を始めた。以下、各研究分野の研究経過の概要をまとめる。遺跡調査部門:遺跡調査における地下情報収集の拡大と調査精度向上の実現に資することを目的に、広域を迅速に調査できること、深層遺構を把握できるための方法の確立をめざした。その結果、地中レーダーを用いた探査により、広域遺跡である郡衙において正倉院内部の総柱建物(正倉)を5棟検出することに成功した。従来、掘立柱建物を探査により検出した例がないことを考えれば、画期的な成果である。深層遺構の探査では、近世城郭の濠遺構、古墳の埋葬施設などの特定や、基壇下層の土質調査を目的とした探査を、地中レーダーの方法を応用して実施した。今後、データ処理の方法改良など、引き続き研究をおこなう予定である。環境考古学部門:電子顕微鏡、実体顕微鏡、レーザーによる3次元測定装置を用いて微細遺物の同定に関する研究を実施した。主な成果としては、動物遺存体の現生比較標本の作製(ガンカモ類、ウ類を中心に約20個体の鳥類の骨格標本)、微細な動植物遺体の研究として、レーザーによる3次元測定装置の応用から金属器の機種による加工痕の判別ができる見通しがたった。また、土壌微細形態学の研究、および動物骨格図録の作製を実施し、来年度には図録の完成を計る。古年輪研究部門:木曽ヒノキ20個体から導き出した標準となる年輪幅の変動と、気象要素との相関関係を検討した。その結果、ヒノキの年輪幅は、前年7月と8月および当年の6月の気温との間に有意な負の相関が認められた。また降水量とは、前年の7月と12月および当年の9月との間に有意な正の相関が認められた。これより、ヒノキの年輪幅は、古気候を復元するための代替データとして有効であることを確認することができた。(2002年4月木材学会で発表予定)木曽ヒノキの年輪内密度変動と気象要素との相関関係については、計28個体から最低2方向ずつ、厚さ0.8mmの試料を作成し終えた。現在、ソフトX線による撮影を進めており、写真濃度計を使った年輪内容度の測定に入る準備は整った。保存科学部門:無機質遺物や有機質遺物などの考古資料を対象とした材質・構造調査から材料科学的および製作技法の復元的研究を継続的におこなっている。現在、古代ガラス材質の歴史的変遷に関しては、その全容が明らかになりつつあり、弥生時代後期頃にはインドを起源とするガラスが日本にも伝えられたことなど、新たな知見が得られた。また、金属遺物に関しても、細形タイプの耳環が、金の薄板を積層して作る特殊な技術が使われていることを初めて明らかにすることができた。また、非破壊調査法の開発研究に関しても、CR法を用いた微小遺物などの構造調査をはじめ、文化財分野におけるデジタルX線ラジオグラフィの応用研究に取り組んでいる。なお、保存科学部門では、平成14年2月14-16日の3日間にわたって"INTERNATIONAL CONGRESS ON THE CONSERVATION AND RESTRATION FOR ARCHAEOLOGICAL OBJECTS"と題して国際会議を開催した。当国際会議では2日間にわたって口頭発表とポスター発表による専門家会議を、3日目は一般公開講演会を開催し、延べ人数800名の参加を得た。
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