研究概要 |
1. Ag添加したZnSb焼結材の合成およびキャリア濃度制御による熱電変換特性向上を試みた.その結果,すべてのAg添加材はp型伝導を示し,Ag添加量の増加とともにパワーファクターが増加した.格子熱伝導率は,Zn4Sb3と同程度に低い値を示し,熱電変換無次元性能指数ZTは670Kにおいて1.15を示すことを明らかにした.また,焼結材の圧縮強度は400MPaと高く,機械的特性も優れていることがわかった.(Bi,Sb)2Te3,充填スクッテルダイトやTAGS等の既存の熱電変換材料とのcompatibility factorも良いことがわかった. 2. 組成式X9Y7Z8(X=Fe,Ru,Co,Rh,Ir;Y=Zn,Mn;Z=Sn and Sb)で表される新規ホイスラー化合物の合成を行った.X線回折およびHAADF-STEM法により結晶構造解析を行った結果,通常のハーフホイスラー化合物XYZ(Normal Half-Heusler:NHH)のユニットセルの2x2x2倍の超格子構造(Double Half-Heusler:DHH)を有することがわかった.NHH構造のユニットセル中では,4つの空孔が正四面体の頂点上に配置しているが,DHH構造は,空孔が形作る正四面体の向きが異なる2種類のNHHサブユニットが交互に積み重なったものと考えることができる. 3. Co9Zn7Sb8およびCoMnSbを結ぶすべての組成領域において,DHH構造を有する4元系固溶体が形成されることがわかった.Mn組成が増加するに従って,サブユニットあたりの価電子数濃度(VEC)が16から21に増加するとともに,電気伝導特性は金属-半導体-金属遷移を示した.また同時に,強磁性半導体的な性質を示し,室温以上の高いキュリー温度を有することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までZn4Sb3の熱電特性については調べられてきたもののZnSbについてはほとんど先行研究がなかった.キャリア濃度の最適が行われて来なかったZnSbにAgドープすることでキャリア制御し,非常に高い熱電特性が得られたことは熱電材料研究において重要である.Ru-Zn-Sb系において通常のハーフホイスラー化合物の2x2x2倍の超格子構造を有するホイスラー化合物を見出した後,様々な元素系(3元系および4元系)において同様の超格子構造を有する化合物相が存在することを見出し,フルホイスラー(X2YZ),ハーフホイスラー(XYZ)に続く,第三のホイスラー化合物群(X9Y7Z8)が存在することを見出した点は,多彩な物理的性質を有するホイスラー化合物の材料研究分野において重要である.
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今後の研究の推進方策 |
ZnSbのAg添加による微細組織および結晶構造変化を調べ,熱電特性の向上の要因を明らかにした上で,特性向上に最適な添加元素の選定を行う.Co-Zn-Mn-Sb系における強磁性半導体的性質は,研究計画時に予想していなかった特異な物性であり,今後のさらなる研究が望まれる.新規な強磁性半導体的性質を示す結晶構造学的要因を中性子回折等を用いて調べ,さらに高い磁化,キュリー温度を有するDHHホイスラー化合物の創製に挑む.
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