研究概要 |
昆虫性フェロモンは超微量な天然生理活性物質であり、一頭の雌が分泌するフェロモン量は大変限られている。しかしながら、各種クロマトグラフィー法や機器分析技術が発達したため、大量飼育の困難な害虫も研究対象にできるようになった。ベトナムで採取し性フェロモンを溶媒抽出し、それを航空便で輸送し日本にて分析した。構造決定した化合物を日本にて有機合成し、それを誘引源としたトラップをベトナムの圃場に設置し雄蛾の誘引を調査することで、効率よく多くの種のフェロモンを同定することができた。当該特別研究員も年に数回、2国間を行き来し研究を進めるとともに、カントー大学において多くのスタッフの協力の下に害虫の採集と野外誘引試験を実施した。主な研究成果は以下の通りである。 1)ポメロの実を食害するPrays endocarpaの性フェロモンの同定とその防除への応用: ポメロはベトナムでは贈答用に使われる高級柑橘で、フェロモン腺抽出物の分析より本種の処女雌は(Z)-7-tetradecenalなどを分泌することがわかった。合成化合物を用いた野外試験の結果、雄成虫は合成アルデヒドのみの誘引源に強く誘引され、12月および3~4月に発生のピークがあることが判明した。更に、そのアルデヒドをポリエチレンチューブに封入した製剤(ディスペンサー)を作成し、それを果樹園で1ヘクタールあたり200~400本設置した。その結果、被害が明確に低減し、本種を対象とした交信撹乱技術を確立することができた。 2)ミモザに潜るスカシバガの性フェロモンの構造決定:ミモザは中南米原産の低木で世界各地に植生域広げ、農耕地の荒廃をもたらしている。生物的防除を目的に、ミモザの幹に潜るスカシバガの一種Carmenta mimosaの性フェロモンを分析したところ、(3Z,13Z)-3,13-octadecadienyl acetateであることが判明し、合成化合物を用いた雄蛾の誘引にも成功した。現在、年間を通した発生消長を検討中である。
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