研究課題
オルソミクスウイルス科に属するA型インフルエンザウイルスは様々な鳥類および哺乳類に感染する人獣共通感染症病原体である。その宿主域を決定する因子についてはこれまでに数多くの報告がなされている。それら因子のうちのいくつかは、宿主域のみならずウイルスの病原性をも決定することが知られている。しかしながら、ウイルスが宿主細胞へ侵入した後、それら因子がどのような宿主因子と相互作用し、どのようにウイルスの宿主域や病原性に関与しているのかを説明する知見はほとんど見られない。本研究は、これまで解明できなかったインフルエンザウイルスポリメラーゼ蛋白質と宿主因子の相互作用に関する様々な新しい知見を得ることを目的とする。FLAGタグをC末端あるいはN末端に付した組換えインフルエンザウイルス(HK483およびHK486株)ポリメラーゼ蛋白質(PB2、PB1およびPA蛋白質)を単独で発現するプラスミドを293T細胞に導入し、可溶化後、抗FLAGタグ抗体ビーズを用いて免疫沈降した。SDS-PAGEで展開した結果、幾つかの宿主由来蛋白質バンドが確認された。これらのバンドを資料分析によって解析した結果、宿主蛋白質であるHsp70およびhnRNP等であることが判明した。これらの蛋白質はポリメラーゼと相互作用する因子である可能性が高い。共焦点顕微鏡を用いた観察によって、ポリメラーゼとこれらの宿主蛋白質は細胞内で共局在することが明らかとなった。HK483およびHK486株以外のインフルエンザAウイルスでの同様の現象が認められた。特にPB2蛋白質との相互作用が重要であった。さらに、siRNAを用いてHsp70をノックダウンした細胞(293TおよびHera細胞)では、インフルエンザウイルスの増殖が抑えられることを見出した。また、各種ストレスによって細胞内に核内に誘導されるHsp70発現とウイルス増殖効率の間に相関があることを見出した。以上の結果は、Hsp70はインフルエンザAウイルスの増殖効率を高める宿主因子であることを示唆している。
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