研究概要 |
本研究は、人獣共通感染症の原因原虫でもあるトキソプラズマ原虫の宿主体内における発育ステージ(急性感染期のタキゾイト→慢性感染期のブラディゾイト)変換機構の解明と新規弱毒ワクチン開発を目指して企画した。本年度に実施した研究内容と得られた研究成果は以下の通りである。 タキゾイトとブラディゾイト虫体ESTデータベースによる各遺伝子の転写レベルの比較を行ったところ、多くのステージ特異的転写遺伝子の存在が確認された。その中で、虫体のレドクスシステム(酸化還元系)の関連酵素-グリオキサラーゼI(メチルグリオキサール(MG)とグルタチオン(GSH)からS-D-ラクトイルグルタチオンを生成させる酵素)遺伝子のクローニングと解析を行った。グリオキサラーゼI(TgGlo1)遺伝子は、1,008-bpのORFよりなり、推定タンパク質の分子量は38.5-kDaであった。TgGlo1の機能ドメインフラグメントを大腸菌にて発現し、組換えタンパク質に対する免疫血清を作製した。この抗血清を用いたイムノブロット法により、38.5-kDaの虫体由来TgGlo1タンパク質が同定できた。また、組換えTgGlo1の酵素活性も確認された。TgGlo1の機能ドメインの二つのアミノ酸残基(E166、R188)が酵素活性に必須であることも確認された。この酵素活性はグリオキサラーゼのインヒビターであるcurcuminにより特異的に抑制された。また、curcuminは試験管培養においてトキソプラズマ原虫の増殖を顕著に抑制した。さらに、マウスモデルにおける治療試験においても一部治療効果が認められた。今後、TgGlo1の虫体発育ステージへの関与の解明が待たれる。
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