我々のこれまでの研究から低酸素におけるADAMTS1の発現ならびにADAMTS1プロモーター領域の解析を行ってきた過程で、低酸素によりADAMTS1が誘導されることは明らかとなった。しかし、リコンビナントADAMTS1タンパクを投与した実験からADAMTS1は血管新生を阻害する方向に働くことが示されているので、何故血管新生阻害分子が低酸素状況で必要なのかという疑問が起こってきた。そこで、低酸素状態における内皮細胞におけるADAMTS1の発現誘導がどのような生物学的役割を持っているか明らかにするためノックアウトマウス(以下KOマウス)を作成して、分子機能の解明を行うこととした。 ADAMTS1 KOマウスを作成し、下肢虚血モデルにおけるADAMTS1役割を検討した。 まず、ADAMTS1 KOヘテロマウスをかけあわせてホモマウスを作成した。ホモマウスは生後24時間以内で高率に死亡するため、実験に供するホモマウスがなかなか得られなかった。平成23年3月時点でホモマウスは4匹生存。死亡の原因を探るため、胎生18.5日のembryoを摘出し遺伝子型を探索したところ、野生型:ヘテロ:ホモ=およそ1:2:1となりメンデル遺伝に合致したので、少なくとも胎生後期までは生存していることが示された。本年度の研究結果よりADAMTS1 KOマウスは生後まもなく死亡する可能性が高く、そのメカニズムについては体色が蒼白であることより、血液・循環器系に異常があることが示された。組織学的検索では肺には異常は見られず呼吸機能には影響がない可能性が考えられた。 (1)ADAMTS1の低酸素誘導システムにGFP(緑色蛍光タンパク)を付加したベクターによる急性期虚血組織の診断の可能性について検討した。麻酔下にマウス下肢虚血モデルを作成し、ADAMTS1 GFPベクターの発現を検討したところ、GFPシグナルが認められた。この結果より、虚血・低酸素により、GFPタンパクの発現が誘導されたと考えられた。 (2)ADAMTS1 KOマウスにおける血管系構築に関して検討する ADAMTS1 KOマウスの胎児腹部皮膚における血管系構築に関して検討した。CD31陽性細胞領域を検討したが、野生型と比較して有意な差は認められなかった。さらに、舌におけるCD31陽性細胞数を検討したが、こちらにも両者間に差は認めなかった。 これらの検討過程において、新生児は死亡するが胎児には大きな発生学的異常は認められないことが明らかとなった。
|