チンパンジーを対象にその顔認識の諸相とコミュニケーション信号の処理の解明に向けて検討を進めてきた。顔認識については、昨年度行ってきた見本合わせを用いた個体識別課題をさらに推し進めた。昨年度は、自種の顔の識別の優位性が年齢を経るにつれて消失することが明らかにしたが、本年度は、さらに、顔特異的な倒立効果の発現についても検討し、若い個体と壮年の個体で、倒立効果の強度に差があることが明らかとなった。また、ヒトにおいては顔処理の右半球有意性が報告されているが、この点についても検討を行った。顔写真を左右に分割し、左部分のみ、右部分のみで構成されたキメラ顔と正常顔の見本合わせを行ったところ、左部分のみで構成されたキメラ顔の方が成績が高いことが明らかとなった。この結果は、左視野入力の情報の処理の優位性を示すものであり、右半球での顔処理の特異性を示唆するものである。昨年度の成果についてはScientific Reportsに掲載され、本年度の成果については現在投稿中である。 また、コミュニケーション信号の問題については、チンパンジーのパントフートやドラミングの際のリズミカルなパターンの規則性について、昨年度に引き続き、フラクタル解析等や各種の信号解析手法を用いて検討を進めてきた。その結果、チンパンジーの生成するリズムパターンと音楽との間の類似性や相似性が明らかとなった。
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