研究課題/領域番号 |
10F00322
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小森 文夫 東京大学, 物性研究所, 教授
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研究分担者 |
KRUKOWSKI Pawel 東京大学, 物性研究所, 外国人特別研究員
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キーワード | 走査トンネル顕微鏡 / X線光電子分光 / 窒化物 / ナノ構造 / 磁性 |
研究概要 |
安定なナノ磁性体規則配列の磁性解明を目指して、Cu(001)表面に磁性窒化物規則ナノ構造を作製する方法を開発し、その組成、構造および形成過程を調べている。昨年度から始めている規則窒化クロムナノ構造の作製条件を探索した。この手法では、清浄なCu(001)表面に窒素イオン注入の方法で表面に窒素原子を導入した後に400℃程度でアニールして作製した窒素飽和吸着表面を利用する。その上にクロムを蒸着しアニールすることにより、窒化クロムナノ構造を作製する方法を確立し、その構造を走査トンネル顕微鏡(STM)で観察した。クロムの平均膜厚(d)が0.5原子層(ML)以下の場合には、500℃アニール後、表面は銅清浄面と数nm-10nm四方の大きさをもつ1原子層の窒化物の島で構成される。島の表面には、原子サイズの規則格子が観察された。また、島内の原子の高さは完全には一様ではなく、60pm程度高い原子列が1nm程度ごとに観察できる。この窒化クロム島の組成を調べるために、同じ作製条件を用いて作製した試料のX線光電子測定を行った。窒素1sの光電子スペクトルから、1)窒素は銅原子ではなくクロム原子と結合している、2)dが0.5ML以下の場合にはCrNができる、3)dが0.5ML以上の場合にはCr_2Nができる、ことがわかった。STMで観察された格子は、単層CrNのCr原子またはN原子と考えられる。その格子定数は、基板の銅結晶よりも8%程度大きく、バルクCrNよりは7%程度小さい。このCrN膜がバルク結晶に比べて圧縮されていることが、結晶格子が規則的な正方格子を維持できず、STMで観察された60pm高い原子列が形成される原因であると結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
興味深いナノ磁性が期待できる安定なCrN膜を作製する方法を開発できたので、従来からの実験手法を用いてその物性を調べる研究をほぼ順調に行ってきた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、作製した磁性体の磁性を走査トンネル顕微鏡にスピン検出機能を持たせて測定する計画であった。しかし、開発を進めるうちに、その手法には汎用性が乏しく一般的なスピン計測は困難であることが判明したため、開発を中断している。今後は、窒化物磁性体ナノ構造の物性を研究の中心とし、磁性を調べるためには電子分光手法を用いる計画である。
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