本研究は、衛星及び地上観測によって、電離圏の不規則構造のなかでも強く通信や測位に悪影響を与える赤道スプレッドF現象(Equatorial Spread-F ; ESF)の発生条件を解明することを目的としている。本研究では、地上の広域ネットワーク観測と衛星観測を駆使した総合データ解析から、太陽と下層大気のどちらか、あるいは両方を起源とする電離圏の振る舞いについて研究を進めた。具体的には、まずFORMOSAT-3/COSMIC衛星によるGPS掩蔽観測データを用いて電離圏電子密度の日々変動特性を解析し、太陽活動度が低い期間を中心として9日周期の変動成分が卓越することを見出した。太陽からは太陽風が吹き出しているが、その吹き出し位置は太陽コロナに限定されるため、太陽の自転に伴い太陽風の速度に変動が現れる。この変動が地球に降り込む高エネルギー粒子の変化を通じて地球磁場を変動させ、さらに前述の電離圏電子密度の変動を生じさせている、つまり太陽風の変動が地球の電離圏に常に影響を与えていることを突き止めた。一方、衛星-地上間の全電子数観測を行う衛星ビーコン観測網の観測データ解析を開始し、トモグラフィによる電子密度の水平・鉛直分布の解明に取り組んだ。今年度においてはソフトウエアの開発に取り組み、観測データからトモグラフィー解析までの自動化をほぼ実現した。さらに、低緯度域の観測データをもとに未だ成功例の少ない低緯度電離圏のトモグラフィ解析を開始した。研究予算の具体的な使途としては、来日間もないことから研究環境構築ため機器整備を進めた。
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