衛星ビーコン観測では、衛星からの2周波数のビーコン波を地上で受信し位相差から電離圏全電子数を測定する。測定される量は全電子数の相対値であるため、絶対値を推定するためには工夫が必要である。従来は、比較的近接した2地点(数十km間隔)に受信機を設置し、両者から測定する全電子数が一致すると仮定することで、両地点の観測オフセット値を求める(2観測点法)。しかしながら広域観測網においては、隣り合う受信点までの距離が約1000kmと広いため2観測点法を用いることができない。Tulasi博士は、C/NOFS衛星からのビーコン観測データについて、東西方向の電子密度の変動は比較的小さい特徴に着目し、全電子数の経度変化が線状であると仮定して絶対値を推定した(1観測点法)。他の観測手段が比較的充実しているベトナムのデータを用いることで、1観測点法から得られる全電子数の絶対値が2観測点法と比較して同等あるいはより良いことを示した。Tulasi博士は、さらに大量データの解析に取り組んだ。ESF発生時刻が電離圏高度の日没に対応することから、日没前後にC/NOFS衛星が現れる期間のデータを調べた結果、LSWSの振幅とESF現象の発生の有無について統計的な成果を得ることができた。それらをまとめると、 1 LSWS発生とESF発生の間には相関関係があり、LSWSがESF発生の前提条件となることがより確かとされた。 2 LSWSが日没よりも早い時刻に発生することが分かった。 3 LSWSの振幅がE領域高度(高度110km)の日没後に急激に発達する。 4 LSWSの変動の位相が地球磁場に沿う結果が得られた。 5 LSWSの東西波長は200~800kmであった、 である。このほか、冬の極域の成層圏に現れる突然昇温が全球の電離圏に与える影響について、衛星観測をもとに研究した。以上の成果を6編の査読付き論文にまとめて発表した。
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