研究概要 |
亜鉛イオンは、蛋白質の構造維持や酵素の触媒作用において極めて重要な役割を果たしていることが知られている。近年では、蛋白質に結合していない遊離の亜鉛イオンが、中枢神経機能や免疫機能に大きく関わっていることが注目を集めている。亜鉛イオンを検出する蛍光プローブに関する研究は多くなされているものの、細胞内における遊離亜鉛イオン濃度の変動を正確に捉えることのできる実用的なプローブの開発は、現在のところ、充分になされているとはいえない状況である。 そこで、本研究では、細胞内の亜鉛イオンの濃度変化を正確に検出することを目的としてレシオ変化型蛍光プローブの開発に取り組んだ。レシオ変化型蛍光プローブとは、生体分子との結合・反応に伴い異なる二波長の蛍光の比(レシオ)が変化する化合物のことをいう。蛍光レシオ測定の利点は、細胞内のプローブの濃度変化や細胞の厚みの違いなどによって、蛍光のアウトプットへの影響を少なくすることができ、通常の蛍光強度が増大するだけの蛍光プローブに比べ、より正確に生体分子のシグナルを捉えることができることである。 まず、7-ヒドロキシクマリンを基本骨格としてレシオ変化型蛍光プローブの設計を行なった。亜鉛イオンとの結合部位は、ジピコリルアミンもしくはN,N-ジピコリルエチレンジアミンとし、クマリンへの導入部位を8位とした。この導入位置にしたのは、クマリンの7位のヒドロキシル基が亜鉛イオンに配位することを期待したためである。ヒドロキシル基の亜鉛イオンへの配位の結果、クマリンの蛍光特性が変化すると予測された。本年度では、このプローブの有機合成に成功した。
|